●骨粗しょう症(上)
★はじめに★
骨粗しょう症という病気が世の中に知られるようになってから、まだそれほど多くの時間がたっていませんが、今、多くの人に関心を持たれている病気の一つであることは間違いないでしょう。テレビや雑誌でもよく取り上げられます。しかし話題が先行しすぎて、実像がわかりずらくなっているきらいもあります。その辺を少し整理してみたいと思います。
★骨とカルシウム★
骨粗しょう症というのは簡単に言えば骨の中のカルシウム分が少なくなっていく病気です。専門的にはいくつかの他の病気を除外していかなければなりませんが、とりあえずここでは考えないことにします。
骨の最大の成分がカルシウムであることは皆さんよく知っていると思います。しかし、カルシウムにとって最大の役割が骨のため、ではないのはご存じでしょうか。実はカルシウムというのは骨以外のところで大事な働きをしているのです。
人間の体というのは、約30兆個もの、細胞という小さな生命体の集まりで出来ています。地球の全人口のそのまた一万倍というとてつもない数です。
カルシウムはその細胞内で栄養のやり取りをしたり、あるいは細胞どうしで情報を伝え合ったりするのに必要な物質なのです。カルシウムが細胞からなくなってしまえば直ちにその細胞は死に、必要な情報が伝わらず、ひいては全体の命さえなくなってしまうのです。
地球に生命が誕生して数億年。その大事なカルシウムが簡単に失われてしまわないように、進化の過程で体内にまとめて蓄える生物が現れました。また、カルシウムは集まると硬くて体の構造を支えるのに適しているため、一部の生物にとってはなお好都合でした。そうして進化してきたのがわれわれ脊椎(せきつい)動物、すなわち背骨を持った動物なのです。
つまり、元来骨というのは体重を支えるためにあったのではなく、生命を維持するのに必要なカルシウムを貯蔵するために存在したと考えられています。ですから、体の中を流通しているカルシウムが減少してくれば、骨はそれこそ骨身を削ってでも体のためにカルシウムを供給しつづけるのです。
★人の一生とカルシウム★
体の中のカルシウムの量は、生まれたときには体重の約1%、30gくらいあります。これは全部母親の胎内にいるときにもらったものです。
その後、口からカルシウムを摂取するようになって徐々に増え、男性なら30歳ころに約1kg、女性なら20歳ころに約700gでピークを迎えます。これを最大骨量といいます。男性はそのまま緩やかに減っていき、普通であれば骨粗しょう症になる心配はまずありません。問題は女性です。
女性は妊娠、出産、授乳とカルシウムの消費量が増加します。その時期というのは摂取量も増加しますし、女性ホルモンの関係でカルシウムの吸収力が高まります。ただ、カルシウムの摂取が不十分ですと出産後骨粗しょう症になることがあり、20歳代で背骨の骨を折ったりする人がいます。
さらに閉経後女性ホルモンが下がりカルシウムの吸収力が低下して、体の中のカルシウムが急激に減少してきます。これがひどいと閉経後骨粗しょう症になるのです。カルシウムの吸収率は、小児のころは約75%、成人では30〜40%といわれています。老人だとさらに低下して20%以下になります。すると、若いころと同じだけのカルシウム摂取ではどうしても不足がちになります。それに運動不足、屋内での生活、栄養のかたよりなどが重なり退行性骨粗しょう症、つまり老人性の骨粗しょう症になるのです。
このように体が必要とするだけのカルシウムが不足してきますと、どの段階でも骨粗しょう症は起こりうるのです。一般に一日に摂取すべきカルシウムの量は若い成人で体重1kgあたり8〜12mg、老人で14〜18mgといわれ、老人のほうがより多く必要とされています。
★骨の構造★
骨というのはカルシウムが均一に詰まっているのではありません。内部は軽石のように小さな小部屋が無数にある海綿骨という構造をしています。この小部屋をくぎっている壁を骨梁といいます。なぜ小部屋があるかというと、一つは骨を軽くするためですし、もう一つは中で血液を造ったり壊したりして再生産するためでもあります。
骨の表面は皮質骨といって、カルシウムの密度が高く硬くなっています。脳を守る頭がい骨、体重を支える大腿、下腿などの骨はこの皮質骨の割合が高くなっています。
骨は硬い殻が外をおおい、それを内部で骨梁が支える造りになっているのです。
(骨粗しょう症(下)に続く)
千田 直(水沢市・整形外科医師) 胆江日日新聞社より