木の実食研究
縄文時代の食生活を 現代岩手の実際から考察 |
縄文時代は木の実が主食だったといわれているがどんな物を、どのような方法で食べていたのだろうか。今でも岩手の地方によっては実際にドングリなどの木の実を、おやつ代わりに食べることがある。その食べ方を紹介し縄文時代の食生活を考えて見たい。 |
私の故郷は宮古市とそう離れていない岩泉である。ここでは大正時代までドングリを主食の一部として暮らしていた人たちがいた。そればかりか平成の現在でもドングリはおやつ代わりに食べられている。その食べ方は特別な道具も入らず、まさに縄文時代でも出来た方法であり、この食べ方こそが縄文時代の人々がドングリを主食としていた方法と考えて間違いないのではなかろうか。 岩泉にはこの伝統的ドングリ食を研究している人がいるので、その方の論文から紹介してみたい。
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大正時代ころまで行われていた木の実食 | |||||
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ドングリ可食化の実習(畠山 剛氏による) (この地方の日常食としてのドングリ食と同じ方法) 材料:コナラ200g,350立方cm、ミズナラ200g,390立方cm から、しぶ取り 鉄製乳鉢に入れ、すりこぎでつく。乾燥堅果は実が締まり、皮との間が中空になっているので簡単にからと渋がとれる。ついても堅果は子葉が二つに割れるだけ。色はコナラは黄白色、ミズナラはタンニン含有量が多いためか濃茶色に変色したものが多い。 からと渋を取り去った実の量 コナラ140g,150立方cm 、ミズナラ150g,200立方cm 水に漬ける 水に漬けて2時間もすれば水は濃茶色になり、水をなめると渋みがある。約24時間水に漬けこの間3回水を換える。 この時の量 コナラ170g,266立方cm、 ミズナラ193g,347立方cm 水に入れて煮沸 水漬けが終えた物を真水で煮沸する。約30分もすれば表面から柔らかくなり、40分ほどで内部まで及ぶ。水は不透明で黒茶色である。 灰水で煮る この水を捨て、あらかじめ作っておいた灰水を、シタミが浸るくらい入れ、加熱。沸騰させる。温度の上昇につれ全体が黒茶色にかわる。これと同時に液中に直径1mm前後の不定形で黄茶・茶色の浮遊物が無数に表れる。時々実を取りだして観察を続けると変色部は表面から内部へ進み、変色した部分はいっそう柔らかくなる。だが苦みがある。変色が中心に及ぶまで約30分、これをもって灰水を捨てる。 真水で煮る 真水を入れて煮沸10分。また水を捨てる。この操作の回数が進むにつれて、実の色は黒茶色のままだが、苦みが減少し、液もほぼ黒茶のまま透明になり液中の不定形の浮遊物も少なくなる。苦みがなくなるまで水換えを8回行う。 蒸す 蒸してできあがる。 出来上がりの量 コナラ200g,283立方cm 、ミズナラ218g,315立方cm (体積の測定値は詰め方によって変化する。この場合はへらで軽くもった) 出来上がりの感じ色は黒茶色で粒は原形をとどめているが指でちょっと押すとつぶれるほどに柔らかい。へらで茶碗に盛りつけることも、握ることもでき、食べ頃の粘度に仕上がっている。この重さはそれぞれ200g,218gで、から・渋を除いた重さの 1.42倍、1.45倍となり、実に含まれているタンニンが水に置き換わっただけでなく、水が全体を豊潤にしていることを物語っている。 |
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粒シタミの食品としての効率
廃棄率 | 可食率 | 100g当たりの熱量 | 2,000cal摂取に要する素材の重さ | |
コナラ | 60.0 | 40.0 | 284cal | 1.8kg(1升8合) |
ミズナラ | 60.0 | 40.0 | 287cal | 1.7kg(1升7合) |
こめ | 0.0 | 100.0 | 356cal | 0.56kg(9.3合) |
(コナラ、ミズナラの熱量の数値は「木の実」松山利夫、法政大学出版局、1982年)
(こめは食品成分表より)
このことから大人一人が1年間食べ続けるには600kg以上のドングリが必要だった。量にして約33斗である。実際にはその他の木の実や肉、魚介類、山菜も食していたわけで、縄文時代の食生活は決して不自由な物ではなかったと思う。 |