2000年夏・成瀬川せせらぎ日記 (後)

一枚一枚の、輝く少年少女たちの笑顔とともに、
その背後の流れの清らかさに注目してください。
この清流を21世紀に引き継ぎたいという思いは、
多くの人々に共通するものではないでしょうか?

最後に、すでに清流が失われてしまった隣の皆瀬川の景色も載せました。
その対照をじっくりご覧下さい。

 

2歳くらいかな。この後アブに背中を刺されて大泣き。

 

5歳。「温泉みたい」とか言ってたけど、水はかなり冷たい。

 

 ☆月♪日 キャンプ場下の河原。宮城から来たという親子4人。「アブがいなくてよかったねえ」とお母さん。前日はひどい目に遭ったらしい。幼い娘2人に水遊びをさせてデジカメで撮影している。まだろくに撮っていないのに姉妹は「見せて見せてー」。
 若いころから山越えして秋田入りしていたという,やや年配のお父さんの話。
 「宮城県にはこんなきれいな川はありません。みんなダムに固められてしまったから。気仙沼の新月ダムは中止になったが,あれは例外。
 30年ほど前,この川の源流にある須川温泉に,祖父と湯治にきた。土砂崩れでバスが途中で止まり,荷揚げの人が荷をかついで沢を渡り,われわれも後に続いた。旅館が満室で,廃車のバスに畳をしいて,そこに10日くらい滞在した。そんな“別館”が10台ほどあったなあ。われわれのバスにはほかにも2家族いて,食事の当番なんかを決めたりした。
 野鳥が好きで,20年くらい前,オオルリやコルリ・キビタキを飼育したことがある。密猟? とんでもない,県からちゃんと許可をもらっていた。今では不可能ですが」

「オタマジャクシがいたよー」

 

水のかけ合いしてたら、しぶきがお兄ちゃんの顔を直撃。

 

 ☆月♪日 キャンプ場下の河原。小中学生の子ども4人が水遊び。宮城から来たという。5年生の女の子「学校のプールより楽しい!」
 付き添いのおじさんとの会話。「この川にダムができるんですか? 知りませんでした。水の量が減っちゃうんじゃないですか?」「水量が人為的に調節されますから,雑草が生い茂って河原が消滅する可能性があります。それに水の濁りも心配ですね」というと「そうなんですか…」と答えて,どこまでも透明な流れを見つめていた。

 
☆月♪日 河川公園。埼玉から来たという2家族。3人の子どもたちはオタマジャクシ捕りに余念がない。お母さんいわく「実家がこっちなんです。東北でもこんなきれいな川は少なくなりましたね。本当にダムができるんでしょうか…」
 神奈川からの別の家族。おばあちゃんの実家のある東成瀬へ,娘夫婦と孫4人を連れて里帰り。おじいちゃんは丹沢の近くに住んでいるとか。「丹沢はむしろここよりきれいですよ。ただ,今の時期は人が多い。暴走族とかも集まるし…」

河原のあちこちで泉が湧き出していて、
成瀬川の流量と透明度を支えている。

快活に泳いでいた兄妹(姉弟かな)。

 

「ホラ、きれいな石見つけたよ」 7歳。

 

 ☆月♪日 河川公園。「東京や仙台の子どもたち」を連れてきたおじいちゃん。「メダカがいるぞお」と孫たちを呼ぶ。網ですくってコップに入れてしげしげと眺める孫たち。でもそれはメダカではない。「これはウグイの稚魚なんです。メダカは田んぼの水路とかにいて,川の本流にはいないんですよ」。間違った知識を子どもに植え付けるわけにはいくまいから。すると子どもたち,矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。「ウグイって何食べるの?」「どのくらい大きくなるの?」「食べると美味しいの?」。分かる範囲で易しく教えてあげるが,「お魚はどうして水の中にいるの?」には弱ってしまった。
 20歳くらいの若者3人が,ヤスで魚を狙っている。流れはゆるいがかなりの深さの淵に果敢に挑んでいた。「捕ったぞ! アユだー!」。マジか? ウグイやカジカならともかくアユをヤスで衝くなんて聞いたことがない。見てみたら本当にアユだった。「よぐ捕ったなや」というと若者は「岩の隙間さ入って動がねヤヅどご衝いだんだど。泳いでるヤヅは無理だどもな」と笑った。もう一匹捕ったウグイとともに焚き火で焼いていたが,魚の焙りかたを知らないらしく,二匹の魚は原型をとどめずに崩れ落ちていた。
 この日,河川公園はバーベキューやら水遊びやらで大賑わいだった。

水を怖がって今にも泣き出しそうだったのに、
ゴーグルをつけたらこの顔。

 

突然現れた怪しいオジサンが向けるカメラにも
ピースサインで応えてくれた。

 

 ☆月♪日 キャンプ場下の河原。「アブがあ〜」とお姉ちゃんはバスタオルをかぶってうずくまってしまった。妹さんは水に浸かって避難。「アブから逃れるには,水に入るしかないんだよ」と言っても,6年生のお姉ちゃんは泣き出しそうな顔で動かない。4年生の妹が水しぶきをあげているのをうらめしそうに見ている。お母さんがカメラを構えて「泳げばいいじゃない」と促す。意を決して水に入るが,すぐに挫折,また上がってしまった。
 「これがアブ。この辺りではツナギっていうんです」と一匹仕留めてつまんで見せる。お母さんは珍しそうに撮影していたが,お姉ちゃんは震えあがってしまった。
 福島から訪れたというお父さんの話。
 「雑誌に『きれいな川』として成瀬川が紹介されていたのを見て来ました。(ダムのことを話すと)そうらしいですね。整地していたところがありましたから。やっぱりダムが造られると,川が変わってしまうでしょうね。福島でも,新潟との県境にある奥只見のダムが問題になっています」

 
☆月♪日 キャンプ場下の河原。宮城からの親子4人。小学6年の男の子と小1の女の子は水着を着ていないが,お父さん「そのまま泳いでいいよ」。
 お父さんの話 
 「本当にきれいな川ですね,来てよかったです。…えっ,この川にダムが? そうですか…ダムが造られることで川にどんな影響が起こるのか,地元の人はわかっているんでしょうか…」

不動滝の沢すじで。

お姉ちゃんたちがしだいにダムを築きあげていく様子を
見つめているお母さんと末っ子(2歳)。

「おじちゃんも矯正しているの?あたしもしてるんだよ、ホラ」と、口のなかの矯正具を見せてくれた。

泳いでいる魚がハッキリと見えるくらい、
水が澄んでいた。


2000年夏の記録:成瀬川と皆瀬川の比較

増田町戸波:成瀬川と皆瀬川の合流点。上が皆瀬川で下が成瀬川の水。
晴天が続いた2000年の8月。

2000年8月の成瀬川(↓)

2000年8月の皆瀬川(↓)

皆瀬川からはすっかり見られなくなった風景。
こんな夏の日常が、
皆瀬川によみがえる日が来るのだろうか?

稲川町上久保橋下流の皆瀬川。
一見、河原と浅瀬が混在して見えるが、
不自然な増水によって岸が浸蝕され削られてしまった。

成瀬川を訪れているのは、ほとんどが遠方からの客。
地元の人はわずかだった。
東成瀬村は、この清流が人々を引きつける魅力を
どれだけ理解しているだろう。

同、上久保橋の上流。
河原が雑草で埋め尽くされている。
というより、「河原」が存在しない。
それにしても、この濁りときたら…。

 

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