成瀬ダム「技術レポート---地形・地質---」
建設省湯沢工事事務所
目次
1.広域の地形・地質
成瀬ダム位置図(省略)
広域地質図(図4−4)
2.ダムサイトの地形・地質
ダムサイト周辺地質平面図(図4-6) ダム軸地質断面図(図4-7)
3.貯水池内の地すべり地形
成瀬川流域の地すべり分布図(図4-10)
4.ダムサイトの地質的評価
5.ダムサイトの選定
6.ダム型式の選定
7.第四紀断層(省略)
8.設計震度
1.広域の地形・地質
(1)地形
成瀬ダムは、秋田県南東部の宮城県・岩手県との県境をなす栗駒山の北麓に位置し、雄物川水系右支川成瀬川の上流(雄勝郡東成瀬村椿川地先)に計画されている。
成瀬川の上流域は、南縁に位置する栗駒山(標高1,628m)より北方に広がる南北に長い流域を形成している。東縁は、奥羽山脈の脊梁をなし南北方向に連なる真昼山地(標高1,000〜1,600m)、西縁は、皆瀬川流域と分水界をなし、南北方向に連なる高遠森(標高856m)、足倉山(標高1,O83m)、円森山(標高896m)など標高700〜1,000mの山地からなっている。
成瀬川は、栗駒山に源を発して北流する赤川と、真昼山地に源を発して西流する北ノ俣沢が檜山台上流(ダムサイト上流約200m)で合流して成瀬川となる。合流後、成瀬川は小さく蛇行を繰り返すものの、岩井川地点までの約15kmの間は、南北方向のほぼ直線的な流路を形成して北流し、さらに岩井川地点で流路を西北西方向に変え、約15km西方向に流下して皆瀬川に合流する流域面積258.7ku、流路延長49.3kmの―級河川である。
なお、赤川と北ノ俣沢の合流点より下流の左岸斜面には、”谷地地すべり”に代表されるような大規模な地すべり地が多く、―方合流点より上流側では、赤川沿いに狭小に段丘面が発達しているが、全体的には、急峻な谷を形成している。
(2)地質
成瀬川の流域には、奥羽脊梁山脈の中心からその西側に「グリーンタフ」と呼ばれる新第三系が広く発達している。ダムサイト南方の栗駒山の北麓(赤川右岸〜木賊沢左岸の山地)には第四紀更新世の栗駒山安山岩類、およびダムサイト東方の唐松沢〜桑木沢上流には、新第三系の基盤岩をなす古生層(二畳系)が分布していて、これらのうち古生層は南北方向に軸を持つ背斜構造を形成して分布している。本地域周辺の広域地質図を次頁に示す。
新第三系は、岩層などの違いにより多くの累層に分けられるが、いずれも中新統となっている。このうちダムサイト周辺および下流には西小沢層が、その下流には山内層、五里台層が分布している。また、赤川およびダムサイト北西方には虎毛山層が分布していて、さらにその西方には三途川層が広く分布している。
新第三系(特に西小沢層)は、ダムサイトより下流域では南北方向に軸を持つ数条の背斜・向斜構造を形成し、成瀬川断層(推定断層)が連続するため複雑な地質構造を形成しているが、ダムサイトより上流域では―般に東側から西側にかけて赤川付近までは、下位の唐松沢層から順に、上位の西小沢層、虎毛山層が分布する同斜構造が形成されている。
グリーンタフ
北上・阿武隈両山地の西方日本海沿岸に至るまでの範囲に分布する、緑色凝灰岩
背斜・向斜・同斜構造
堆積岩において、地層が水平面を基準として上方に凸の構造を背斜構造、その隣合う構造を向斜構造という。
地層が同じ方向で同じ角度に傾いている場合、同斜構造という。
2.ダムサイトの地形・地質
(1)地形
ダムサイトは、成瀬川上流の赤川と北ノ俣沢の合流点の直下流の、成瀬川沿いに段丘面が良く発達した開析の進んだ谷に位置し、河床部は標高約430mで20〜30mの河床幅をなしている。
左岸側は、成瀬川の攻撃斜面よりなり、標高62Om付近に鞍部をもつ幅の狭い尾根よりなり、河床から標高540m付近までは40°前後、標高540mから小丘状のピークをなす標高625mまでは30〜35°の急傾斜を形成している。
右岸側は、河床から標高450〜460m付近までは、段丘崖に相当する50°前後傾斜の急崖や急斜面よりなり、標高450〜46Om以高470m付近までは、幅200〜30Om前後にわたって平坦な段丘面が広がっている。標高470m付近以高では、25〜35°傾斜の小尾根状の斜面より形成されている。また、小尾根状斜面下流の段丘面と接する山裾部には扇状地性の緩斜面、それより上流側は尾根状の地すべり地形(R-5)およびその上流に隣接して台地状の地すべり地形(R-6)が認められる。
(2)地質
ダムサイトおよびその周辺は、新第三紀中新世の西小沢層と虎毛山層赤川角礫岩部層・葮長凝灰岩部層および新第三紀〜第四紀火山岩類が分布している。主な地層の特徴は以下の通りである。
@西小沢層・・・本地域の最下層をなし、主にダムサイト付近から下流および北ノ俣沢上流に分布している。ダムサイトト周辺では同層下部の緑色凝灰岩を主体とし、凝灰角礫岩を挟有している。ダムサイトより下流では、同層上部の泥岩が主体である。
A東山流紋岩類・・・成瀬川右岸の南北方向に連なる山体を形成し、西小沢層を貫入または覆って分布している。
B虎毛山層・・・赤川角礫岩部層と葮長凝灰岩部層からなっている。
1)赤川角礫岩部層・・・西小沢層の泥岩を起源とする非常に不淘汰な角礫岩で、主に赤川、北ノ俣沢合流点付近から上流に分布している。
2)葮長凝灰岩部層・・・西小沢層の泥岩の岩片を多く含む凝灰岩層である。
この両部層は、互いに入り乱れた分布をなしており、ほとんど同時堆積したものと推定される。
C栗駒山安山岩類・・・ダムサイト南方の栗駒山山麓の狐狼化山山頂付近に虎毛山層を不整合に覆って分布している。
不整合
ある地層が堆積後隆起して、陸上で風化、削剥作用を受け、その侵食面上に新規の地層が堆積したとき、両者の関係を不整合という。
3.貯水池内の地すべり地形
成瀬ダム及ぴ貯水池周辺には、活動中の地すべり箇所はないが、空中写真判読等によると地すべり地形と考えられるものが5箇所ある。
当該箇所には、必要に応じ押え盛土等の対策を行う。
4.ダムサイトの地質的評価
成瀬ダムの基礎の地質については、地質構造が複雑なため、学識経験者・専門家による検討を昭和58年度から行ってきた。その結果、高さ110m程度の口ックフィルダムの築造は可能であるという結論に達した。
5.ダムサイトの選定
現在のダムサイトは以下の条件により選定された。
@空中写真の判読や現地踏査の結果、ダムサイトから下流ほど”谷地地ずべり”に代表されるような地すべり地が多い。
A赤川と北ノ俣沢の合流点より上流では、目的の貯水容量が確保できないこと。
したがって、ダムサイトは大規模な地すべり地を避け、かつ貯水効率が良く、より多くの貯水容量を得ることができる二川(赤川と北ノ俣沢)合流後の現ダムサイトを選定した。
6.ダム型式の選定
成瀬ダムの基礎岩盤は、新第三紀中新世の凝灰岩類(軟岩)であり、特に河床台地部の―部および右岸には劣化部(変質または破砕)が分布している。また.左岸アバット部には不安定岩塊(L−3プロック)が分布している。したがって.本ダムの基礎岩盤は、ダム高110m級のダム基礎としては、強度等の点から重力式コンクリートタイプの採用は難しいと判断され、コンクリートタイプに比べ基礎岩盤にかかる単位面積当りの荷重が小さく、また基礎の軽微な変形に堤体が破壊することなく順応して変形することができる口ックフィルタイプを採用した。
8.設計震度
堤体の設計震度は、設計基準と近傍ダムの実績などを考慮して0.12と決定した。
(1)河川管理施設等構造令(政令:1976年10月施行)
河川管理施設等構造令施行規則第2条によると、堤体の設計震度は下表に掲げる値以上とする、とある。
成瀬ダムは、「フィルダム、その他のもの」および「中震帯地域」に該当する。したがって設計震度は、0.12となる。なお、引き続き検討する。
設計震度
|
ダムの種類 |
強震帯地域 |
中震帯地域 |
弱震帯地域 |
1 |
重力式コンクリートダム |
0.12 |
0.12 |
0.10 |
2 |
アーチ式コンクリートダム |
0.24 |
0.24 |
0.20 |
3 |
フィルダム(ダムの堤体がおおむね均一の材料によるもの) |
0.15 |
0.15 |
0.12 |
4 |
フィルダム(その他のもの) |
0.15 |
0.12 |
0.10 |
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