8.7 「各省庁への陳情」報告

 「成瀬の水とダムを考える会」(事務局:十文字町)と「成瀬の清流とみどりをまもる会」(事務局:東成瀬村)は、8月7日合同で建設省、農水省、環境庁に対し「成瀬ダム計画を見直すよう」陳情を行ないました。

 当日、「考える会」からは3名、「まもる会」からは2名が上京しました。始発の新幹線に「北上」、「水沢」から乗り込んだ5名は車内で合流、まず議員会館に向かいました。今回の紹介議員は、日本共産党衆議院議員松本善明氏。議員会館では秘書の方と打ち合わせした後、昼食をとり、午後より建設省、農水省、環境庁の順に廻りました。具体的な内容は以下のとおりです。
■建設省:河川局開発課/課長補佐クラス3名

 私たちは、
要請文に基づいて「成瀬ダムの洪水調節能力が極めて小さい」ことや、「秋田県農林水産年報によっても干ばつ被害は僅少である」ことなどをデータで示しました。これに対し、建設省側は、「ダム建設の緊急性や必要性はあると考えている。積極的に推進する方向で、現在基本計画案を作成中であり、近々に秋田県に公示する予定である」ことを明らかにしました。「猛禽類の調査」については、調査方法に問題があるとの私たちの主張について、不備を認めないものの今後とも調査を継続していく予定であると述べました。
 私たちは、建設の必要性についてもう一度事実にもとづいた判断をするよう、要請しました。
 なお、ダム湖と放流河川の濁度問題について問い質したところ、建設省側は、問題あるダムについては調査を行なうと答えました。全体的な印象としては、建設省湯沢工事事務所が従来から主張していることの繰り返しであり、私たちの声に耳を傾けようとする姿勢は見られませんでした。

対 建設省

■農水省:構造改善局建設部/設計課・水利課などの課長補佐クラス6名(林野庁経営企画課含む)

 私たちは、
要請文に基づいて「皆瀬ダムの利水効果、3割減反、地下水利用、農家の番水努力などによって水需要は基本的に満たされている」ことを説明、さらに「米価の著しい低下によって農家経営がかつてないほどの危機のなかにあり、これ以上の負担は無理である」と主張しました。

これに対し、農水省側は、「農家の努力により、やっと旱魃被害を防いできたのでは? 農家の高齢化など農業情勢の変化により安定的な用水の確保が厳しくなっており、ダムに水源を求めていかざるをえない」との認識を示しました。私たちは、農家が「ダムの水よりも足下の水に対し現実的な信頼をして」おり、「地下水汲み上げ用ポンプの管理費を支給するなどの施策をすることの方が効果対費用がはるかにすぐれている」こと、またカメムシが異常に発生していることに関し、「カメムシ発生を助長するような草地よりも地下水涵養や貯水効果が期待できる減反田の貯水利用などの代替案を検討すべきである」と主張しました。農水省側は、「そうした話は聞いていない。勉強していきたい。」と述べました。
 なお、林野庁の担当官からは、「森林生態系とダム湛水域との重複問題について、現在東北森林管理局で協議が進められている」との報告にとどまりました。

対 農水省

 全体的な印象としては、農業をめぐる厳しい情勢を反映してか、農水省の政策立案担当クラスが私たちの要請から何かを吸収しようという意欲をもっていることが理解できました。それは出席者6名という応対人数にも表れていたと思います。
■環境庁:自然保護局野生生物課係長クラス2名

 私たちは、
「考える会」の要請文「まもる会」の要請文に基づいて「ダムの必要性は無く、ダムより森林の育成など、より自然との共生の方向で解決すべきこと」を主張し、環境庁がイニシアチブを執って建設省、農水省、林野庁などの関係部署を指導してほしい、と訴えました。特に、地元「まもる会」のメンバーは、「建設省の調査が、同庁が提唱している『猛禽類保護の進め方』の手引のようにはなっていないので、環境影響評価にふさわしい調査を徹底するよう指導を強めてもらいたい、それに問題がある場合には環境庁独自の調査も考慮すべきである」、「ダム建設を前提とした森林生態系の歪な線引きについて林野庁に再考を進言してほしい」、「ダム湖と放流河川の濁度問題について全国的な調査と情報公開を」、と主張しました。これに対し、環境庁側は、「関係各省を指導していくことは難しい」と、明確な回答を避けました。

対 環境庁

 全体的な印象としては、様々な施策が環境に関わる時代になっているにもかかわらず、環境庁が依然として各省に対して弱腰な姿勢であることを感じました。一刻も早く環境庁の積極的な対応が必要とされており、そのためにさらに国民の後押しが必要である、と思った次第です。
■陳情団の感想と決意

 今回は二つの組織にとって初めての中央省庁陳情でした。今までは、建設省湯沢工事事務所や秋田県との交渉が主でしたが、今回の陳情で見えてきたものも数多くありました。ひとつは建設省河川局が出先の主張そのままに「成瀬ダム」問題を捉えていることで、これは一部自治体幹部や建設促進団体の主張を反映したものでした。一方、農水省は今日の厳しい農業情勢を受け、一生懸命勉強していこうという姿勢がうかがわれたことは私たちにとっても収穫だったと思います。同行の松本議員秘書も「農水省の対応が今までとは違っていた」と語っていたのが印象的でした。また、環境庁は他の省庁との関係でいまだイニシアチブを発揮するに至っておらず、各県から情報を得て動かざるをえない状況があるように思われました。こうした事情を考慮しながら今後私たちも有効な運動を作っていく必要を感じた次第です。

陳情団(農水省にて)

■カンパへのお礼と会計報告

 8月17日現在の集約で74名、146,000円ものカンパをいただきました。これらの浄財は上京陳情団の交通費他として使わせて頂きました。主な内訳は以下(新幹線料金 92,000円、高速,ガソリン代 5,150円、地下鉄料金 960円、その他 8,165円)で、残金は39,725円となりました。これは,次回の上京陳情などに使わせていただきたいと思います。誠にありがとうございました。


建設省への要請文

                                  平成12年8月7日
建設大臣 扇 千 景 様


  国直轄多目的ダム「成瀬ダム」建設計画は
    その事業の緊急性や必要性に欠けている事実を訴え
           計画の見直しを要請します


「成瀬の水とダムを考える会」

         世話人 秋田県平鹿郡十文字町    奥 州 光 吉
         世話人 秋田県平鹿郡増田町      石 川 次 郎
         世話人 秋田県平鹿郡十文字町    熊 沢 文 男

「成瀬の清流とみどりをまもる会」

         世話人 秋田県雄勝郡東成瀬村    伊勢谷政雄
         世話人 秋田県雄勝郡東成瀬村    富田 義行

 大臣におかれましては、日頃よりわたしたち地方住民の安全と生活向上に、不断の御努力をいただいていることに、深く感謝の念を表します。
 さて、かねてより国直轄事業「成瀬ダム」基本計画策定作業が進行中と聞きます。しかし、この計画は地域住民の目からすれば、事業の理由付けに多分の無理や無駄が目につき、その必要性に欠けています。むしろ今後の国や地方の財政に負の影響を重ね、国民の負担を積み増すだけです。
 つきましては次の各項について要請します。


1.このダムの洪水調節能力は、雄物川水系全体としては、きわめて非効率的なものです。それは集水面積が同一水系玉川ダムの 弱しかなく、かつ夏季の当該集水域降水量が、同じく玉川ダムの流域に比べ、半分以下であるにもかかわらず、洪水調整量は を見積り、その効果が疑われます。また、終戦直後の荒廃した国土の時代に防災の基準をおいており、且つ建設省の予想でも、このダムの洪水調節能力は極めて小さなものです。費用対コスト、および効果に問題があり、再検討を要請します。

2.このダムは、実質的には農業用水ダムです。しかもその必要度は、終戦直後の頃に比べ、皆瀬ダム完成を契機に干ばつ被害の状況はかわりました。「秋田県農林水産年報」戦後50冊弱のデータに示される現実は、次第に克服された被害の状況が、明確に物語られています。皆瀬ダムの完成3割減反などにより、さらなるダムによる用水確保策は、茶碗1杯の水需要に給水車を出動させる状況に似てきました。現実の農業災害の実態から、ダム計画の見直しを求めます。

3.このダムにかかる上水道需給計画のその主たるものは、当該流域にかかる増田町・十文字町・平鹿町に関するものです。この3町は現在地下水を水道用水の水源としていますが、夏季の不足は実質的に存在せず、将来とも確保が保証される状況です。
 また当地は本来地下水が豊富なところです。農業用水路などの環境回復型工事により、より上質で安価な生活用水を供給できます。したがって、上水道計画のかかるダム取水計画は不要であり、この計画分のダム取水量は再考を要請します。

4.ダム計画予定地は、白神山地に匹敵する自然度の高い場所であることが、建設省や民間の環境調査で明かになってきました。この自然は、県民の貴重な財産であるばかりでなく、人類全体のためにも、私たちはその維持に努力すべき地域とおもいます。
 しかし、猛禽類類の調査については、専門団体より調査方法に不備の指摘もあります。とりわけ、クマタカなど絶滅危惧種である猛禽類類などの繁殖への影響の可能性も指摘され、工事にはいる前のさらなる調査検討を要請します。

5.このダムは建設の緊急性や必要性がないばかりか、さらに効果対費用の点での代替え案検討も実質的になされていません。こうした計画は、国と住民が、共同で検討していくべきです。住民の納得できる構成による「ダム審議会」の再開、または事業計画の即時見直しを要請します。

農水省への要請文

                                  平成12年8月7日
農水大臣 谷 洋 一 様


  国直轄多目的ダム「成瀬ダム」は
    その事業の緊急性や必要性に欠け
       民意を反映していない計画の見直しを要請します



「成瀬の水とダムを考える会」

         世話人 秋田県平鹿郡十文字町    奥 州 光 吉
         世話人 秋田県平鹿郡増田町      石 川 次 郎
         世話人 秋田県平鹿郡十文字町    熊 沢 文 男

「成瀬の清流とみどりをまもる会」

         世話人 秋田県雄勝郡東成瀬村    伊勢谷政雄
         世話人 秋田県雄勝郡東成瀬村    富田 義行


 大臣におかれましては、日頃よりわたしたち国民のため激務に励まれ、とりわけ困難を極める農林行政全般にわたり、その展望を開くべく御難儀いただいていることに、深い感謝と敬意を表します。
 さて、当地では、先年来、多目的ダム「成瀬ダム事業計画」が進行中です。しかし、この計画は地域住民の目からすれば、事業の理由付けに多分の無理や無駄が目につき、また、必要性もありません。むしろ今後の国や地方の財政に負の影響を残すのみではという心配をしています。
 その実情を以下に述べましたので、大臣の適切なご判断をお願いします。

1.当地は秋田県南部に位置し、気象条件の面では卓越した条件に恵まれた良質米産地として、永年その存在を全国的に認められてきました。水稲栽培は十分な日照量と降水量を要求しますが、この二つの条件は正に二律背反の関係にあります。これをストレートに要求すると、非常な自然への負荷をともないます(例えばダム)。昔から農家はそのための技術を営々と蓄積してきました。森林、あるいは里山を適宜に利用管理する。とりわけ湧水・落水の利用は徹底したものでした。自然の循環抑制の理念からすると、これは正に高度の先進技術であったことが再評価されます。
 当地は、昭和38年、当該地農業用水のために、非洪水期かんがい2470万の皆瀬ダムが完成し、いちおうの干害対策は完了のはずでした。しかし、抑制理念の欠如により、年次により若干の干害被害が生じたりしました。しかし、その被害実績は、皆瀬ダムの無かった時代に比較しますと、格段に縮小し、その状態は、秋田県農水産年報戦後数十冊(農水省)の中から、干ばつ被害は限りなくゼロに接近している現実を知ることができます。
 これは、皆瀬ダムの完成、3割減反、地下水循環策などにより、若干の経費支出はありましたが水需要は充たされています。ここで「農家負担」と、ダム経費を比較してください。わたしたちは、「茶碗1杯の水需要に給水車を出動させる」ダム支出を止めるよう要請します。と同時に、農家のそこに生じる負担に、相応の支払をして欲しいとお願いします。
 実際多くの農家は、この計画にかかわる水路整備事業負担も考え、その必要はないと言っています。現在進行中の1ha田整備事業の負担もあり、3割減反米価切り下げの中、これ以上の負担は耐えれないと言います。農家が安心して、持続的な食料生産できる経営環境の確立のために、ダムに替わる方法の検討を請願します。

2.当地の「横手土地改良区」は、最近総代会で、ダム建設に係わる水路改修の議案を議決したそうです。しかし、9割以上の農家はこのことを知らず、報道も遅れています。総代になりたい人がきわめて少なく、仕方なくなった人も組合員の意見をまとめる暇がありませんでした。破損補修の必要は認めますが、ダム建設にかかわる工事はまったく不要です。これ以上の無駄で、国民を酷税と借金の地獄へ放り込まないで下さい。

3.ダム計画予定地は、白神山地に匹敵する自然度の高い場所であることが、環境調査で明かになってきました。この貴重な自然は、人類全体の財産として、その維持に努力すべきものと思います。そこでこの際改めての要請ですが、ここの生態系保護地域線引きの時点で、生態系保護の視点から大きく疑問を残す線引きをしています。この機会に現地を調査し、万人に納得のいく生態系保護地域の線引きへと訂正されるよう要請します。ましてダム事業予定地域と保護地域との重複部への譲渡的処置などは、絶対に認めないよう要請します。

環境庁への要請文(「成瀬の水とダムを考える会」)

                                  平成12年8月7日
環境庁長官 川 口 順 子 様


  国直轄多目的ダム「成瀬ダム」(東成瀬村)は
    その事業のコスト対効果でよりよい代替え案があり
       かつ貴重な自然環境の破壊行為以外の
          何物でもない事実を訴え、事業の見直しを要請します


「成瀬の水とダムを考える会」

         世話人 秋田県平鹿郡十文字町    奥 州 光 吉
         世話人 秋田県平鹿郡増田町      石 川 次 郎
         世話人 秋田県平鹿郡十文字町    熊 沢 文 男


 大臣におかれましては、日頃より環境行政全般、頻発する環境問題への対応など、繁忙を極めるお仕事に、住民の立場からつねに誠意あるご対応をいただき、わたしたちは深く感謝と敬意の念を表します。
 さて、当地では国直轄事業「成瀬ダム」基本計画策定作業が進行中であります。しかし、この計画は地域住民の目からすれば、事業の目的は20年前、すでに解決済みの問題であり、さらなる必要性はありません。むしろ今後の国や地方の財政に負の遺産を残すのみでなく、貴重な生態系保護地域の破壊行為そのものであることを訴え、適切なご処置をお願いするものです。以下、その要旨を述べさせていただきます。


1.このダムの洪水調節能力は、きわめて非効率的なものです。それは同一水
系玉川ダムとくらべ、集水面積 弱、かつ夏季の当該集水域降水量が、玉川ダム流域の半分以下ですが、設計洪水調節量は と過大です。また、終戦直後の大洪水発生時とは、地域の状況は大きく変化しました。昭和大造林事業の進展、そして現在の生産林管理の放棄など、あたらしい状況が生じ、一方洪水調節ダムの容量も飛躍的にふえました。したがって、今後の治水は、ダムより森林の育成、遊水地、かすみ堤、部分的堤防のかさあげなど、より自然との共生の方向で解決すべきです。

2.このダムは、かんがい2,850万 、全体の46%は農業用利水目的です。し かし、農業用水需要の現状は、近隣に既設の皆瀬ダム(非洪水期2,470 )の完成、三割減反などにより、かっての干ばつ被害は消滅しました。何よりも、東北農政局「秋田県農林水産年報」のデータがそれを物語ります。したがって、さらなる用水確保策は、ダム以外の方法で十分に充たされ、コストも低く、自然負荷量も減らす方策をとるよう要請します。

3.このダムにかかる上水道需給計画中、その主たる量は当該流域にかかる増田町・十文字町・平鹿町に関するものです。この3町は現在地下水を水道用水の水源としていますが、量は豊富であり、将来とも確保が保証される状況です。
 問題は冬季の地下水不足傾向ですが、これは水循環を無視した農業土木事業が原因であること明白です。積雪期の冬季は農閑期でもあり、水田による地下水函養や伏流水開発など、より正常な水循環の回復をはかり、コストのひくい方策の(関係者への)ご指導を要請します。

4.ダム計画予定地は、白神山地に匹敵する自然度の高い場所であることが、環境調査で明かになってきました。環境アセスメントは、平成11年6月、新法施行1週間前に滑り込みましたが、その間、やったかどうかわからない植物調査実態が暴露され、1年間の再調査のための手続き延期がありました。イヌワシなど絶滅危惧種である猛禽類類などの調査も、調査地点が少なく調査の信頼性に疑問が指摘されています。クマタカ繁殖の可能性もたかく、環境影響評価準備書の精査を望みます。アセスメントは一部継続中でもあり、環境庁の積極的なイニシアチブを要請します。

5.また、現地は、生態系保護地域でもありますが、その線引きは生態系保護の視点から明らかに納得の行かない線引きとなっております。この点についても、環境庁でも、再度の精査を要請します。

6.このような、コスト対効果無視、環境負荷無視の事業プロセスの進む最大の原因は、真の住民代表を含まない「ダム審議会」による、実質的な「代替え案」審議もない運営にあると思います。環境行政の立場から、この点も含めて、当該事業計画に対する、何人も納得のいくご発言を要請します。

環境庁への要請文(「成瀬の清流とみどりをまもる会」)

 「成瀬ダム」建設計画について、環境影響評価にふさわしい調査を事業者側に徹底させるとともに、ダム建設予定地周辺の貴重な生態系について万全の環境保護政策をとることを求める要請書

           平成12年8月7日

      秋田県雄勝郡東成瀬村田子内

      成瀬の清流とみどりをまもる会会長 東成瀬村議会議員 柳 邦夫

                      同右役員 東成瀬村議会議員 伊勢谷政雄

                      同右役員 東成瀬村議会議員 富田 義行

環境庁長官

川口 順子 様

 建設省が当村に建設を計画している「成瀬ダム」については、すでに環境影響評価の手続きを終え、まもなくダム建設の基本計画が公示されようとしています。
 この成瀬ダム建設の環境影響評価の手続きは、ご承知のように1999年の環境影響評価法の施行直前に終わっています。したがいまして、従来の「閣議アセス」のもとで行われた成瀬ダムの環境アセスは、事業者である建設省にたいする環境保全面での拘束力の弱さだけでなく、その調査内容の不備やずさんさにおいても多くの問題をはらんだものとなっています。
 つきましては、成瀬ダムが「閣議アセス」のもとでのダムという制約を前にしながらも、以下の点などについて少なくとも環境アセス法の基準にならぶほどの強力な環境保護行政指導を貴庁に執っていただきたく、ここに要請する次第です。

要請項目

一、環境影響評価による現状調査対象区域を含む成瀬ダム建設予定地の周辺は、イヌワシ、クマタカ、オオタカなどの生息が高い頻度で確認されています。しかし、閣議アセスによる事業者川の見解は「いずれもダム建設による影響は少ない」ということで断定・統一されています。
 これらの調査は現在も建設省によって継続されていますが、環境アセス書に見られる調査報告の範囲を見た限りでは、その調査が、貴庁自然保護局野生生物課が提唱している「猛禽類保護の進め方」の手引きのようにはなっていないといわざるを得ません。
 確認されているイヌワシについて、建設省の生息調査書を分析した日本自然保護協会は「イヌワシは、出現する個体の中に一番が含まれているのは確実である。このペアの『高頻度利用域と幼鳥の養育範囲(繁殖しているならば)』がダム計画と重なるかどうかが予測と評価における焦点」とのべ、さらに「クマタカはダムサイト近くに確実に一番がいて、繁殖に成功している可能性が高い。(他に)もう一つ繁殖しようとしている番がいる。」などの点を指摘しています。
 ワシタカ類の行動圏内部構造の把握、個体識別など、環境影響評価にふさわしい科学的な調査を推進させるために、貴庁から事業者側にたいして可能な範囲での積極的な対応をしてほしいと思います。また、ダム湛水予定地で確認されているシノリガモについての厳密な調査や、食痕があると推定され生息していると考えられるクマゲラについても、調査をさらに徹底されるよう指導を強めていただきたいと思います。

一、ワシタカ類などの希少種、絶滅危惧種の調査について、環境行政上の方針にもとづく調査が仮に今後も事業者側によって徹底されず、調査に大きな不備や問題がある場合は、貴庁による独自の調査も視野におくことを予定してほしいと思います。
 また、ダム建設予定地での営巣や生息のための高頻度利用が明らかになった場合には、環境保護にむけた適切な施策を推進してほしいと思います。

一、「成瀬ダム」ダムサイト予定地上流の北ノ俣沢一帯三千六百九十三ヘクタールは、世界遺産の白神山地にならぶ栗駒山・栃ヶ森山周辺森林生態系保護地域に指定され、その一部はダムの本事業区域にも分布しています。ダム予定地と貴重な環境要素の関連について、こうした特殊性を貴庁として考慮され、事業者側へとともに林野行政サイドにも、生態系保護を強力に働きかけていただきたい。
 また、この地区の生態系保護地域指定については、ダム建設を前提に保護地域線引きがなされたことが明瞭であり、生態系保護地域の本来の趣旨にそった再線引きを考慮されることも進言してほしいと思います。

一、国内に既設のダムの中で、ダムへの湛水によるダム湖と放流河川の濁度長期化問題が顕著になっている事例が出ています。事業者側は「選択取水設備で濁度を軽減できる」という見解ですが、最新式の「選択取水設備」をもつダムでも洪水時などの放流水による河川の濁り長期化が問題になっています。
 人工的な要因による河川の濁り長期化が環境・生態系に及ぼす影響は大きいのですが、この点での全国のダム事例に関する事業所側の実態調査と情報公開へのとりくみは立ち遅れている感を否めません。
 環境行政の側面からも、この問題への留意をされて、ダムによる河川の濁りが生態系に与えている影響について独自の調査をされるとともに、事業所がのべる「選択取水」方式の濁り軽減策について、それが生態系への影響との関係でほんとうに有効と判断できるほどの役割を果たすものかどうかの科学的な検証結果が国民にしめされるような方策を貴庁にも執っていただきたいと思います。
 
 以上がとくに要請したい項目です。成瀬ダムは、実質的には森林生態系保護地域に建設されると言っても過言でないほど貴重な自然の中心部に建設されるという特殊性をもったダムです。こうした点を考慮されての、貴庁の積極的な対応をお願いいたします。

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