●咳の種類

 咳(せき)の性状はおおざっぱに、痰(たん)のからまない乾いた咳と、痰のからんだ湿った咳にわけられます。

 乾いた咳はいわゆる「から咳」で、コンコン、ケンケンなどと表現されます。一般に「上気道炎」つまりカゼの咳です。

 痰のからんだ湿った咳は、「下気道の病気」つまり気管支炎や肺炎などに多く、ゴホンゴホンといった表現をされます。

 咳は気道内の分泌物や異物などを外に出すための生体の防御反応のひとつですので、むやみに強い咳止め薬を使うなといわれています。痰がたくさん出る病気で咳を無理に止めてしまえば、痰はもっと溜まってしまい、呼吸が苦しくなってしまいます。しかし、咳き込みが激し過ぎて、体力が消耗したり嘔吐して栄養も取れない場合など、咳止めが必要な場合もあります。いずれにしても、咳の原因となっている病気の根本を良くする治療や薬が大事です。

 そのためには、咳の原因になっている病気を正しく診断しなければなりません。お家の方の話は、診断の大きなたすけとなります。たとえば、「熱はありませんが、いったん咳が出始めると顔をまっかにし、よだれや涙を流しながら咳き込んで止まりません。息がつけずに苦しがって最後にはヒューッというんです」と伺えば、「百日咳かな」と考えます。

 「夜中に突然、咳をして起きて苦しがりました。声がかすれて出ないし、馬が吠えるような、オットセイのようなへんな咳です」などと伺えば「仮性クルプ(急性喉頭炎)かな」とわかります。症状は、専門用語でなくて結構ですので、ご自分なりの表現で具体的に教えていただけるととても助かります。

 新生児や、生後数ヶ月の赤ちゃんでは、感染症以外にミルクが気管に入ってしまうせいで咳をすることもあります。ミルクがむせて上手に飲めない、あるいは胃からミルクが逆流して上がってきてしまう場合です。

 幼児が激しくむせた後で、咳が頻発するようになれば、ピーナッツなどの気道異物が疑われます。診断が遅れると、異物がつまった先に肺炎をおこしてきます。

 副鼻腔炎(蓄のう症)の鼻汁がのどに下がって、長引く咳の原因になっていることもあります。痰がからんだゼロゼロした咳に聞こえるので、気管支炎かな、と思っていると実は蓄のう症だったということはめずらしくありません。

 ぜんそくの咳はヒューヒュー、ゼーゼーという喘鳴(ぜんめい)を伴います。気管支が収縮して内腔が狭くなってしまうためです。ぜんそくの咳は、夜の就眠時や明け方早朝に出やすいのですが、日中診察にいらしていただいたときにはおさまっていたりします。そんなときお母さんに「ゆうべ咳き込んだとき、子供の背中に耳を当てて聞いてみたら、ピーピーという音がしていました」などと教えていただけると大変参考になります。

 ぜんそくでなくても、1〜2歳までのお子さんは、ゼーゼーしやすいものです。もともと気管支が細く痰がたまりやすいうえ、上手に痰を出せないからです。かぜをひいたかなあ、と思うとじきにゼーゼーしてきて、「喘息様気管支炎です」といわれる、そんなことをくりかえす赤ちゃんは「喘鳴児」と呼ばれます。2歳ごろから良くなってしまうことが多いのですがなかには、小児ぜんそくに移行するかたもあります。

 激しい運動の後や、急に冷気を吸い込んだ後に咳き込む、あるいは季節の変わり目や気象の変化で咳が出やすくなる、そんな場合はアレルギー性の咳も考えられます。

 咳が長びく感染症に、マイコプラズマやクラミジア感染症があります。もともと健康な人が「肺炎」になった場合、これらの感染症であることが多く、小児科でもよくみられるものです。

 たいていの咳はなぜか夜間にひどくなります。脳の咳中枢は迷走神経を介するのですが、寝ている間は自律神経が迷走神経優位になっているからか、寝る姿勢では肺に体の水分が多く集まるからか、眠っているとうまく痰が出せなくてたまってくるからか、よく理由はわかりません。もし、夜間睡眠中はまったく咳をせず、日中のみ激しい場合は、心因性の咳ということも考えられます。心因性というのは、「わざとしている」のとは違います。ストレスをうけとめた体が、症状として咳を表している心身症と考えられます。

 咳の出る病気は、多種多様です。診断に苦慮することもままありますが、お家の方に教えていただく、咳の様子や状況が大変役に立つことが多いです。

板倉紀子(水沢市・小児科医師) 胆江日日新聞社より