●パーキンソン病(2)
★治療★
現在のところ、パーキンソン病を完治させる治療方法はありません。治療の目的は、長期にわたる薬物療法により症状を軽くして日常生活をしやすくすることにあります。薬物療法の他に外科療法(定位的視床手術、移植治療)がありますが、いずれにしても運動能力を高めるためにリハビリテーションを平行して行うことが重要です。
▽薬物療法について
パーキンソン病の治療に用いる主な薬剤は、脳内で不足したドパミンを補うため、それの前駆物質であるL−DOPA製剤(ドパミンは血液脳関門を通過できないので経口投与しても脳に到達できないため)、ドパミン受容体を刺激する薬剤、ドパミン神経終末からドパミン放出を促進する薬剤、アセチルコリンの働きを抑えてドパミンとのバランスを調整する抗コリン剤に分類されます。これらの薬剤は脳内の黒質線条体ドパミン神経系およびその周辺神経系に作用して、正常に近い神経伝達を行い得るように働きます。
薬物療法の開始時期と内容は患者さんの社会生活上の必要性、年齢などによって決まります。自覚的に症状があっても放置して差し支えない場合は、生活指導のみで経過を観察します。薬物療法を開始する場合は、重症度によって処方の組み立て方が変わってきます。
軽症者では、日常生活に支障がなければ薬物療法は控えて、過労を避ける、便通を良くする、十分な睡眠をとる、規則正しい生活を送るなどの生活上の注意で対処できることが多くあります。薬としては、抗コリン薬(アーテン等)やアマンタジン(シンメトレル)で開始するのがよいとされ、症状はかなりよくコントロールできます。またドパミン受容体刺激薬(パーロデル等)は薬効はやや劣りますが、長期的に使用が可能なので投与されます。
中等症以上では、L−DOPAとドパ脱炭素酵素阻害薬との合剤(ネオドパゾール、メネネット等)と、ドパミン受容体刺激薬との併用が多く用いられます。すくみ足の目立つ例ではドロキシドパ(ドプス)が奏効することがあります。
しかし、パーキンソン病治療薬は服薬を開始してすぐに効果が表れるものではなく、長期にわたり服薬しなくてはならないため、根気よく正しく服用するように指導する必要があります。効果がないからといって勝手に中止にしないようにする事が重要で、患者、家族、主治医の連携が必要です。薬を突然に中止するとパーキンソン病の急激な憎悪や悪性症候群を生じます。悪性症候群は発熱、頻脈、筋硬直、意識障害などが主症状です。 さらに薬物療法と同時に生活指導が必要です。これは家族の協力が必要です。日常生活の範囲を狭めないで、意欲を持ってできるだけ発病前の生活を続けさせ、趣味や嗜好、飲酒などの制限はしないほうがよいようです。生活の範囲を狭めると徐々に日常生活が制限されるようになり症状の進行を早めます。
特にかぜなどで臥床生活が長くなると、廃用性委縮や歩行機能の低下により日常生活能力(ADL)が著しく低下して寝たきり状態になる可能性があります。したがって家族は、衣服の脱着、トイレ、食事などなるべく自分で行わせ、できるだけ臥床生活を避ける努力が必要です。また、食事量の低下による栄養不良や脱水にも注意して下さい。
▽リハビリテーション
パーキンソン病におけるリハビリテーションは薬物療法と併用することで症状をよりよくすることが可能になります。
《軽度障害(YahrのステージI・II)》
運動の指導は四肢の関節運動、体幹の回旋運動やバランス運動を中心とする。病前から行っていた運動があればそれを続け、入院生活においては病棟内の歩行、階段昇降などの運動を行う。
《中等度障害(YahrのステージIII)》
軽度障害の訓練に加えて理学療法士による個別治療が必要となる。ストレッチング運動などによる異常姿勢(前傾前屈姿勢や側屈姿勢)の矯正、バランス反応の促進を介助運動で行う。また集団によるスポーツ(ゲートボール等)、コーラス、カラオケに参加する機会をつくるなど。
《重度障害(YahrのステージIV)》
パーキンソン病でのものによる障害に加え、慢性疾患に共通する障害が加わり、合併症予防も重要である。患者の動作を見守ることや話を聞くなど介護者の忍耐と寛容さが要求されはじめる。
《最重度障害(YahrのステージV)》
変形拘縮、床ずれ、呼吸器や尿路感染症などの合併症予防が中心となる。関節運動や日常の座位保持、車椅子散歩など周囲からの働きかけが大切である。
リハビリテーションのポイントはYahrの重症度に合わせたリハビリテーションを初期より取り入れることです。そしてリハビリテーションと薬物療法を併用し、パーキンソン病を克服しましょう。そのためには、患者さん自身、家族、主治医の忍耐強い連携プレーが必要です。
冨田 幸雄(水沢市・脳神経外科医師) 胆江日日新聞社より