●かぜとインフルエンザ(2)

 インフルエンザはかぜの一種ではありますが、かぜの中で最も重篤な病態を示します。欧米では、インフルエンザは一つの病気として認知され、そのほかのかぜとは、一線を画しています。インフルエンザは他のかぜと同様にウイルス(インフルエンザウイルス)によって発症します。急性に発症し、時に爆発的に流行します。発熱は38度以上で頭痛・腰痛・筋肉痛・関節痛・全身倦怠(けんたい)など症状が重いのが特徴です。

 インフルエンザは、流行のたびに多くの高齢の方々の命を奪います。死因としては、高熱・脱水・細菌の二次感染による肺炎の合併などがあげられます。自然経過としても長く、他のかぜの症状のピークが2〜4日くらいであるのに対し、インフルエンザは発熱だけでも1週間つづくこともあります。流行の時期は大体冬に限られます。(12月〜2月くらい)あっという間に流行します。テレビ・新聞などでインフルエンザ流行と報道されるときは、ほとんどピークを迎えています。

 インフルエンザも他のかぜ同様に予防が一番大切です。予防に最も有効な方法にインフルエンザワクチン接種があります。どのくらいに有効かといいますと、ワクチンで接種しない人が100人いたとして、100人中60人がインフルエンザに罹患(りかん)したとします。対してワクチン接種した人100人では25人しか罹患しなかったという報告があります。しかも接種した人で、運悪くインフルエンザに罹患しても、死亡したり重症化したりする人はかなり抑えられるという報告もあります。

 インフルエンザワクチンは、数年前までは学校などで普通に実施されていましたが、小児のごく一部で脳炎などの後遺症が出たということなどより、一時はほとんど実施されなくなりました。しかし欧米などでは、高齢の方や、心・肺に病気をもつ人には積極的に実施されており、日本との差がかなりありました。

 一昨年日本でインフルエンザが大流行し、高齢者の方がかなり亡くなられてからは、やっと厚生省も重い腰を上げて、今年より特に心・肺などに病気をもつ高齢の方には、積極的にワクチン接種しましょうという機運が見えてきました(ただし接種費用は全て自己負担ですが)。

 また中には昨年ワクチン接種を受けたので今年はよいだろうと思う方もいるでしょうが、インフルエンザウイルスは流行のたびにウイルスの変種といって、その姿・形を変えてきます。そのため、昨年のワクチン接種では、今年のインフルエンザ予防には役立たないことが多いので、今年は今年で受けることをおすすめしておきます。私自身も昨年約60人くらいの患者さんにワクチン接種しましたが、インフルエンザに罹患した人は、ほとんどいませんでした。

 しかしワクチン接種をしても100%予防できるわけではないということも事実です。また、インフルエンザ以外のかぜの予防はできないということも事実です。しかしインフルエンザは冒頭にのべたように他のかぜとは別格なかぜなのです。命を落とすこともありますし、高熱がつづきそのまま寝たきりになる人もいます。ワクチンという予防法があるわけですから、それを利用しない手はないと思います。

 ワクチン接種については、これまで2〜4週間間隔で2回接種を行ってきましたが、1回接種でも予防効果は2回接種とそれほど変わらないという報告(成人以上に限ります)が増えてきたため、私自身は小児を除いては1回接種で十分と思いますが、接種時に主治医と相談してみてください。接種時期は、もちろん流行してからでは間に合わないことが多いので11月〜12月中旬くらいまでに接種するのをおすすめします。なお費用などにつきましては主治医ないし最寄りの医療機関に問い合わせをしてみて下さい。

 最後に治療についてお話します。インフルエンザウイルスをやっつける薬は、アマンタジンという薬や他にいくつか出てきていますが、インフルエンザウイルスでも姿・形が違うのがあり、薬が効く場合と効かない場合があり、いずれ万能薬というわけではありません。結局は他のかぜと同様に対症療法(症状にあわせた治療)が主体となります。食べられない患者さんには点滴をしたり、細菌の感染を引き起こせば、抗生物質の投与などを行います。

 いずれ予防に勝る治療はないわけですので、ワクチン接種をしたり、流行期には、できるだけ人込みにはいかない、自分が運悪く罹患した場合は、他への配慮として外出は控えるなど大切と思います。いずれ罹患した場合は、早めに医療機関で受診して下さい。

谷口 幸彦(水沢市・内科医師) 胆江日日新聞社より