●糖尿病の合併症(2)
糖尿病で最も恐ろしいのはその合併症です。糖尿病を長年放置しておくと全身にいろいろな合併症を引き起こし、最悪の場合、失明したり、死に至ることもあります。自覚症状が出た段階では、かなり病状は悪化していて、日常生活に支障をきたす事にもなりかねません。合併症は、急激におこる急性合併症と、徐々におこる慢性合併症とに大別されます。なかでも慢性合併症の網膜症、神経障害、腎症は糖尿病の三大合併症といわれ、恐れられております。これら合併症を招かないためにも、糖尿病を早期に発見し、血糖をコントロールしていく生活習慣の改善が大切です。
★慢性合併症★
@糖尿病性網膜症
糖尿病網膜症とは、血糖のコントロールの悪い状態が続き、眼底にある網膜の毛細血管がもろくなって冒される病気です。現在、後天性の失明原因の第一位となっています。
A糖尿病性神経障害
これは、三大合併症のうちでも最も多く、また早くから出てくる合併症です。毛細血管が狭くなったり詰まったりして、神経に十分栄養が送られなくなったり、代謝の乱れのために神経線維の中にいろいろな物質がたまるなどして、神経が変性するためにおこります。神経障害には、大きく分けて、末しょう神経障害と自律神経障害があります。末しょう神経障害による症状として、手足のしびれ感、冷感、痛み、感覚鈍麻、こむらがえりなどがあります。自律障害の症状では、発汗異常、起立性低血圧、便通異常(便秘、下痢)、ぼうこう障害、インポテンツなどがあります。
B糖尿病性腎症
体内で生じた血液中の老廃物は、腎臓(じんぞう)でろ過され、尿中に排せつされます。ところが、血糖値が高い状態が続くと、腎臓の中の血管が冒され、血管からたんぱくが漏れ出て(たんぱく尿)、老廃物をろ過する機能が衰えてきます。さらに進行すると、水分が血管外にしみ出てむくみ(浮腫)が起きます。むくみはやがてからだ全体に現れます。この状態を「ネフローゼ症候群」とよびます。さらに進行すると、老廃物が血中にたまり、腎不全、尿毒症へと進みます。尿毒症になると、血液が酸性に傾き、食欲不振、吐き気、貧血、強いむくみなどが現れ、血圧が高くなり、心臓の負担も増加して、肺水腫を起こしたり、ついには心不全やこん睡に陥って、命が奪われる事にもなります。
C脳梗塞(こうそく)
脳の動脈に血栓ができる脳血栓と、心臓などにできた血栓が運ばれて脳の動脈に詰まる脳塞栓(そくせん)があります。糖尿病患者で多いのは脳血栓で、ろれつが回らなくなったり、物を飲み込めなくなったり、顔面神経まひ、半身不随、痛みなどの知覚がなくなるなどの症状を起こします。脳梗塞が広い範囲に及ぶと、死に至る事もあります。
D狭心症・心筋梗塞(こうそく)
心臓を養っている冠動脈に血栓を生じ、冠動脈の血流が少なくなり、心臓の筋肉が酸素欠乏になった状態が狭心症です。血栓が冠動脈を完全にふさいでしまい、心筋の一部が壊死(えし)を起こすのが心筋梗塞で、糖尿病患者の重大な死因の一つとなります。
E糖尿病性壊疸(えそ)
下肢の動脈に血栓を生じ、血流が低下する結果、足の冷感、蒼白(そうはく)、痛みなどをきたし、さらに進行すると下肢が化のうして腐ってしまう病気です。初期には内科的治療で改善する場合もありますが、下肢の切断に至ることや、敗血症によって死亡する場合もあります。
F感染症
糖尿病で血糖が高い状態にあると、血液中の白血球の働きが鈍くなり、からだの免疫力を低下させるので、細菌やビールスに対する抵抗力が弱まります。そのため、ちょっとした風邪で肺炎になったり、ぼうこう機能障害を伴う場合は尿路感染症、腎盂腎(じんうじん)炎などにかかりやすくなります。
★急性合併症★
合併症の中には、糖尿病自体や糖尿病の治療が原因となって、急激に起こるものもあります。主なものに、糖尿病こん睡と低血糖こん睡があります。糖尿病こん睡は、極度のインシュリン不足による著しい高血糖が原因で起こります。非常にのどが渇き、今まで経験した事がないほどのだるさが特徴的症状で、このような自覚症状が現れたら、速やかに医師に連絡し、処理する事が大切です。低血糖こん睡は、薬物療法中の人で、投与したインシュリンや経口血糖降下剤の量が多すぎたり、食事をとらない場合や激しい運動をした場合、血中のブドウ糖が著しく低下して起こります。急な空腹感、どうき、うまく話せない、冷や汗などの症状が現れ、この状態の時に糖分を摂取しないで放って、おくと、まもなくこん睡状態に陥ります。低血糖症状が現れたら、すぐに砂糖やあめなどの糖分を補いましょう。
鈴木 密雄(水沢市・内科小児科医師) 胆江日日新聞社より