●脊髄(せきずい)小脳変性症
介護保険制度においては、65歳以上の高齢者はいかなる疾患によっても介護が必要な状態になったなら、そのサービスを受ける権利があります。しかし65歳未満の場合は要介護、要支援の状態に該当すれば、即、介護保険の給付対象となるわけではありません。脳血管障害や初老期痴ほうなど、その発症が加齢と関連のある疾患(特定疾病)によって要介護、要支援の状態となった場合に限られます。今回は特定疾病のうち脊髄小脳変性症についてお話しします。
小脳は協同運動や筋緊張、身体の平衡保持などに関与しています。しかし、ときに小脳自身の病変や脊髄・脳幹などに含まれる小脳の求心性神経路、または遠心性神経路の障害によって、その機能が侵されることがあります。これらの障害をもたらす疾患のうち、小脳または脳幹・脊髄が系統的に変性する一連の疾患を脊髄小脳変性症といいます。
脊髄小脳変性症は、主として侵される部位、遺伝性などから分類されていますが、厚生省特定疾患調査研究班(運動失調調査研究班)による診断基準が、介護保険制度でも利用されており、今回はこれで説明します。各病型は次の通りです。一般の方には理解できないかもしれませんが、この病態には多くの種類があるという事を知っていただきたいのです。
★脊髄小脳変性症の病型★
@オリーブ橋小脳委縮症
A皮質性小脳委縮症
BMachado−Joseph病
C遺伝性オリーブ橋小脳委縮症
D遺伝性皮質性小脳委縮症
E歯状核赤核淡蒼ルイ体委縮症
F遺伝性痙性対まひ
GFriedreich運動失調症
これらの中の@ABについて説明します。
《オリーブ橋小脳委縮症》
中年以降に失調歩行、四肢・言語の失調症状で発病し、経過とともにパーキンソン症候、自律神経症状(排尿障害や起立性低血圧症)をていすることが多い。頭部のCTや磁気共鳴診断装置(MRI)で小脳・橋の委縮を認める。この病型はわが国の脊髄小脳変性症の中で最も多く、進行はやや速いが遺伝性はない。
《皮質性小脳委縮症》
中年以降に失調歩行を主に発病し、上肢の失調症状は軽い。言語は失調性となり緩徐となることが多い。パーキンソン症候、自律神経症状が出現することはほとんどない。頭部のCTやMRIで小脳委縮を認めるが、脳幹委縮は認めない。この病型は純粋に小脳症状のみをていする病型であり、進行が著しく遅く、遺伝性はない。
《Machado−Joseph病》
脊髄小脳変性症はときに遺伝性を示すことがあるが、その中で最も頻度が高いのがこの病型である。これは若年から中年、ときに老年に小脳性運動失調を初発する。そのほかに眼振、運動まひ、腱反射亢進など錐体路兆候がほぼ共通に見られる。そのほかびっくり眼、眼球運動障害、筋委縮などもある。晩期には感覚障害、自律神経症状(特に排尿障害)も認められることがある。頭部のCTやMRIで小脳委縮、脳幹委縮を認める。
本症は進行性であり、いずれの型もとくに有効な治療は現在ないため、主として対症療法を行います。甲状腺(せん)刺激ホルモン放出ホルモン剤の注射が唯一進行を遅らせる手段です。最近、この製剤の内服薬が発売され、今までの注射より有効な血中濃度の維持が可能なため、その効果に期待したいところです。
私の診療所に通院中の患者さんの中に、この病気で苦しんでいる方が5名おります。完治させる方法が無いことへの悔しさと、転倒しないようにと祈る気持ちで診療を行っています。不幸にも病態が進行した時点では介護が中心となります。家事、通院への介助や身体の介護が不可欠であり、介護保険制度におけるサービスが最も力を発揮することとなります。そして医療、特に主治医と居宅介護支援事業所のケア・マネジャーとの密な連携によって、この疾患に苦しむ人々に有意義な生活を少しでも長く、できれば人生を楽しんで送れるように、私たちは援助したいものです。
冨田 幸雄(水沢市・脳神経外科医師) 胆江日日新聞社より