●脳出血
脳出血とは、通常高血圧に起因する穿通枝動脈(脳実質内の細い血管)の血管壊死(えし)を基盤に生じた脳内の小動脈瘤(りゅう)の破綻(はたん)によって、脳実質内へ出血した状態をいいます。
出血の好発部位は、大脳(被殻、視床、皮質下などに分類する)、小脳、橋(きょう)です。一昔前までは脳卒中といえば脳出血であり、そのほとんどが重症だったものです。高血圧症の管理の徹底と栄養状態の改善により大出血の症例は減少し、救命目的の脳内血腫除去術は数少なくなりました。しかし、時々発症することがありますのでシニアの脳疾患のひとつとして覚えておいた方がよいでしょう。
脳出血の特徴は4つあります。
1、活動時に起こりやすい。(約60%)
2、脳細胞が破壊されるために片まひや言語障害などが急速に進展し、6時間後に最大に達する。意識障害は軽度のもの(何となくおかしい、眠りがち)から間もなくこん睡に陥る重症例もある。
3、頭痛、嘔気、嘔吐(おうと)を伴う。
4、既往に高血圧があることがほとんどで、発症時の最大血圧は200mmHg以上となることもたびたびである。高血圧の管理不十分(内服の自己判断での中止など)の人に多く、血圧のコントロールがうまくいっている人は、出血しても小血腫(しゅ)で予後も良好なことが多い。
脳出血は家庭、職場、あるいは運動中、いつ、どこで発症するかわかりません。前記の4つの特徴があればこの疾患が疑われます。軽症であれば安静にして、病院へ搬送の準備をして下さい。万一、意識障害、呼吸障害(いびきをかく、舌根沈下《ぜっこんちんか》といって気道が狭くなるような場合)を伴う重症なものは、搬送前に次のことが必要となります。
◎首を伸ばして気道を広げる。
◎高いまくらは使わない。
◎下顎(あご)を前につき出して呼吸しやすいようにする。
◎嘔吐をしている時は、さらに顔を横に向け、吐物を誤飲しないように注意する。または、まひ側を上にする体位をとらせる。
いずれにしても軽症、重症にかかわらず、救急車で搬送、正確な診断、治療が必要です。数十年前は脳卒中急性期には絶対安静が鉄則であり、患者を動かすと死亡するという考えが民間はもとより医師においてさえ、固守されていました。例として佐藤総理大臣が料亭で脳出血発作を来し、当時の名医が絶対安静を守りそのまま寝かせ、病院への搬送を拒否したため後日、死亡した例はいまだに記憶に残っているところです。
脳卒中の外科は脳出血の治療から始まり、現在のように普及したものです。その診断はCTスキャンや磁気共鳴診断装置(MRI)で容易に確定できます。治療は保存的治療(内科的治療)と外科的治療(手術)がありますが、特に手術適応については厳密な判定を行い、実施しているのが実際であり、担当医にまかせる事が重要となります。しかしその適応は少なくなりつつあります。
読者の方々が最も知りたい点は脳出血の予防法でありましょう。
一、高血圧の管理
健康に注意を払っていれば、自分の血圧値を知らない方は皆無と思われますが、再度確認を。朝、昼、夕の血圧を知っておくことが重要です。
二、食事の管理
低塩食を心がけ、動物性脂肪を少なめにし、植物性タンパク質を多めに摂るようにしましょう。脳血圧の要因の一つは血管壁の低蛋白とも言われています。
三、生活の管理
@飲酒は清酒なら一合、ビールなら一本、ウイスキーシングル1〜2杯、ワインはグラス1.5杯の適量を目安に!
A急に寒気にあたらない。(トイレなど寒い所に行く時は保温をする)
B入浴はぬるめのお湯(40℃位)で脱衣場は暖かくする。
◎毎年、市町村による基本健診が実施されています。高脂血症、糖尿病、高脂血症等に対する検診です。この検診を受け、結果を利用する事によって生活習慣病を脱却することが予防の第一歩であると思います。
まとめとして、脳出血は脳実質内の血管が破れ出血し、血腫を形成するため、必ず脳細胞を破壊します。その結果として片まひや言語障害などの神経脱落症状を残し、その後の生活に障害を来します。完全に治す方法はありません。予防が最大の治療です。
冨田幸雄(水沢市・脳神経外科医師) 胆江日日新聞社より
生活習慣病 | |
生活習慣病は、少し前までは「成人病」と呼ばれていた。長年の生活習慣の積み重ねから病気が起こることが多いので、最近は「生活習慣病」と呼ばれている。 主な生活習慣病は、心筋梗塞(こうそく)、脳卒中(脳血管疾患)、高血圧症、高脂血症、糖尿病などで、これらの病気は生活習慣や食習慣が大きく影響して発病する。 日本人の死因の約6割が生活習慣病。しかも、40代を過ぎてから発病することが多い。生活習慣病は、入院が長期にわたり、障害が残ることも多い。特に脳卒中の場合は、入院が長期化することが多く、糖尿病や肝臓の病気など、慢性の病気の場合も長期の治療が必要になる。 生活習慣病は、食生活、運動、休養、喫煙、アルコールなど、日ごろのライフスタイルと密接なかかわりがある。予防するためには、禁煙、食生活の改善、運動の習慣など生活習慣を見なおし、改善を図ることが必要。 |