●脳動脈瘤(りゅう)破裂によるくも膜下出血

 くも膜下出血の症状は突然に襲ってくる、頭が張り裂けるような激しい頭痛(人とあのことで口論中立ち上がった瞬間とかトイレで気張った直後とか『発症の時間を特定できるような』激烈な頭痛が特徴!です。朝起きたときから頭が痛かったが段々ズキンズキンと強くなり我慢できない――血管性頭痛――とか、数日前からうなじから後頭部がしめつけられるように痛い――筋収縮性頭痛――とは痛みの性質や起こり方がまったく異なります)、さらに嘔吐(おうと)及び意識障害などです。

 くも膜下出血は故小渕前総理が罹患(りかん)した脳梗塞(こうそく)や脳出血と並ぶ脳血管性障害、脳卒中(いわゆる中風、あたった)の御三家の一つで脳卒中全体の約1割を占めますが、実はその中でも最も症状が重篤で死亡率が高い疾患なのです。

 くも膜下出血の原因の約95%は脳動脈瘤破裂によるものです。脳動脈瘤は脳主幹動脈(脳底部の比較的太い動脈)の分岐部に発生します。発生原因としては@先天的に動脈壁がもろい(血管壁の一部、中膜が欠損)A血行力学的負荷因子(心臓の収縮期圧、いわゆる血圧を伴った血流が常時血管分岐部に衝突するため、徐々に風船状に膨らむ)が考えられています。 脳動脈瘤の発生頻度ですが、剖検例(他の原因で死亡した人の死後解剖症例)や脳ドックで発見された未破裂動脈瘤の報告から40歳以上の人口の3〜5%と言われています。つまりその辺の町を歩いている40歳以上の100人に3〜5人は脳動脈瘤を持っているというわけです。

 その未破裂動脈瘤の破裂の可能性ですが、年間1から1.5%前後と言われています。それを累積破裂率に換算しますと10年後には10%前後、20年後には4分の1前後、30年後には3分の1前後が破裂することになります。ですから自然歴では、未破裂動脈瘤がある40歳の人は生涯では30〜40%の確率でくも膜下出血になるということになります。

 ところで、実際の年間破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血症例は日本全国の平均では10万人あたり約20人です。くも膜下出血はほとんどが40歳以上であり、同年代は人口の50%ですので、40歳以上では5万人あたり20人がくも膜下出血になります。発生率3%としますと5万人では1500人に動脈瘤がありますので、破裂率は、1500分の20=1.3%となり前記の破裂率とも一致します。

 いったん破裂しますと、初回破裂で30〜40%は死亡するか、治療の対象にならないほど重篤になります。残りは、回復しますが、動脈瘤の周りを血糊で覆っている一時的に止血している状態、つまり、洪水で決壊した北上川の堤防に土のうを積んで一時しのいでいる状態にすぎません。再び決壊すなわち再出血発作に襲われますと累積では70%が死亡という恐ろしい病気です。従って50%〜60%だけが治療対象になるに過ぎません。命を救うには再出血の前に根治的治療すなわち、手術しかありません。

 胆沢病院脳神経外科では平成11年末までの22年間で約800例の脳動脈瘤の直接手術経験があります。手術の治療成績は、以前の職場に戻れる社会復帰が85%前後、家庭内自立が10%前後、死亡及び寝たきりなどの重篤な後遺症の残存が5%前後です。手術まで持っていければいいのですが、くも膜下出血の現実は厳しく、いったん破裂しますと50%前後は駄目となります。従って、それでは破裂以前に発見して治療するほうが良いという考えになります。これが、いわゆる脳ドックです。

 MRIという便利な検査を受けると脳の血管が見えますので脳動脈瘤のスクリーニングが可能です。非侵襲的な検査です。(痛くもかゆくもありません…懐だけが痛みます)。40歳以上で、1〜2親等の親族にくも膜下出血の患者さんがいらっしゃる方は、脳動脈瘤の発生が統計学的に有意に高いことが証明されていますので一度受けてみてはいかがでしょうか。

大和田健司(水沢市・脳神経外科医師) 胆江日日新聞社より

 

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侵襲

 検査や治療などによって、患者を傷つけたり、クオリティーオブライフを低下させたりすること。この侵襲の程度と自然経過を改善させる効果の度合いによって、患者がその検査や治療の適応になるかどうかが決まる。当然、侵襲のできるだけ小さい検査や治療が望まれる。