●アルツハイマー型痴呆
痴呆症は、アルツハイマー型痴呆、脳血管性痴呆、その他の痴呆(正常水頭症、慢性硬膜下血腫など)に分類して考えると理解しやすいようです。わが国では古くから脳血管性痴呆がアルツハイマー型痴呆より多いことが強調されてきましたが、決してそうではありません。アルツハイマー型痴呆も多く、今後は高齢者の増加により、ますますアルツハイマー型痴呆が大きな問題となることと思われます。
アルツハイマー型痴呆(ATD)は主として初老期に発病するアルツハイマー病(AD)と、老年期に発病するアルツハイマー型老年期痴呆に区別されてきましたが、最近は両方を区別しないでADと呼ぶようになっています。ATDの概要は次のようにまとめられます。
発症年齢は加齢、老化と関係し、70歳以降に多く、徐々に発症し、進行性に悪化します。そして女性に多い傾向にあります。(男女比1:3)人格は早期に崩壊し、病織は早期になくなるのが特徴です。中核症状(知的機能低下)について詳しく説明することにしましょう。
@記銘力・記憶力障害…物を覚える能力(記銘力)や覚えた物を保持し、再生する能力(記憶力)が低下する。例えば日本の総理大臣は…?
A見当意識障害…時、場所、人物などを正しく認知できなくなる。
B思考力・判断力障害…継続的に物事を考えることや、的確に判断することができなくなる。
C計算力障害…簡単な計算ができなくなる。例えば100−7は…?
また周辺症状としては、
@感情障害…しゃべらず、ふさぎがちになる抑うつ状態や、何もする気がなくなり一日中ボーッとしているような意欲、自発性の低下、すぐに興奮して怒ったり泣いたりする感情失禁。
A病織の障害…自分が痴呆であることを自覚しない。
B発語減少…言葉を話さなくなり、会話の内容も乏しくなる。
C行動異常…昼と夜の生活が逆転し、夜になると起き出して家の中を動き回ったりする夜間せん妄、虫などいないのに「虫がいる」などの幻覚を訴えたり、「家族が食事をさせてくれない」といった被害妄想にとらわれる。ほかに攻撃的行為や徘徊、不潔行為などが見られる。
ATDの原因は今のところ明らかではないが、ATD脳では、前頭葉、側頭葉を中心とした、びまん性脳萎縮が認められます。これは大脳皮質の神経細胞が消失し、脳全体が萎縮し、脳の溝が広がってきます。特に記憶に大切な「海馬」の神経細胞は消失しやすいのです。これらの変化はMRIで明瞭に確かめられるようになってきて、診断は以前よりやや容易になりつつあります。
ATDの治療法はまだ確立されていないのが正直なところです。従って、ATDの危険因子と考えられるものを除くことが、多少なりとも自分たちにできる予防法と言えます。危険因子の代表的なものは@頭を使わないことA社会性がなく、閉鎖的な性格Bケガや病気などによる寝たきりC退職による仕事と生きがいの消失D頭部外傷E遺伝F引っ越しなどの環境変化、などが挙げられます。
最近、日本ではこのATDの治療薬が発売されました。私も15人ほどの患者さんに使用し、効果を認められる例も経験しています。本来は、この何倍もの人に投与が必要なのですが、ATDの診断を下し、患者さんや家族に伝えるのはつらい、あるいはできないというのが臨床現場の今の姿です。
今後さらに治療法が確立され、早期からATDと診断し、告知できる日を待ち望んでいます。ATDの早期発見のために表を示しました。物忘れのある人は自分で比較するのも一方法です。
正常老年者の「物忘れ」とATDの「物忘れ」の違い
正常者の「物忘れ」 | ATDの「物忘れ」 | |
知的機能 (思考力・判断力) |
正常 | 低下 |
知的機能 (見当識) |
正常 | 低下 |
知的機能 (記銘力・記憶力) |
体験の一部分を忘れている | 体験の全部を忘れている |
物忘れの自覚 | ある | ない |
経過 | 進行しない | 進行する |
日常生活 | 支障無し | 支障有り (幻覚・妄想・徘徊など) |
冨田幸雄(水沢市・脳神経外科医師) 胆江日日新聞社より
MRI(マグネチック・リソース・イメージング) | |
磁気共鳴コンピューター断層撮影装置と訳す。MRIにより、脳血栓、脳梗塞(こうそく)、脳腫瘍(しゅよう)、脳動脈瘤(りゅう)、脳動静脈奇形、脳内出血、慢性硬膜下血腫(しゅ)、アルツハイマー病などがわかる。MRIの概念を説明すると、磁石のお化けみたいな機械を使って体内の状態を検査すること。通常は、体内の輪切り像を写真として撮影するので、MRCTとも呼ばれる。写真を見ると単純X線CTと似ているが、観察する側からはMRIは骨に邪魔されないためにX線では見にくい場所が見えたり、単純X線CTでは写らないものが観察できる。患者にとってはX線のような放射線を使わないので被爆の心配がないという利点がある。が、心臓の病気でベースメーカーをつけている人は立ち入り禁止、携帯電話や磁気カード類の持ち込みは禁止となっている。 |